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水葵えばのページを開いてくださり、ありがとうございます。
ここには創作の文章ばかり掲載しています。
 
トップページにはタイトルに「月」の文字が付いている6作品です。新作をふらっと追加するかもしれません。

『点灯夫』のページには原稿用紙2、3枚の14作品です。

『ひまわり』のページには原稿用紙4~7枚の8作品です。

ぼちぼち読んでみてくださいね。
お好みの作品、琴線に触れる作品がありますように。


「月」の目次


お願い(*^^*) リンクではありません。ひたすらスクロールしてください。

月と木星の夜に
月うさぎが月とはぐれた夜
月が消える夜の小さな小さな話
月と海賊船
竪琴を奏でる月姫とラケル
月見草が咲く夜にピアノをひいて



月と木星の夜に


 
 夜も更けて。

 こんな時間でも国道を走る車の音は聞こえるけれど、それはもうBGMのようなもので。

 ほかに物音はなく、カエルの声も聞こえない夜。

 わたしはベランダで月を眺めています。

 今夜の月は満月まで何日か必要な形ですけれど、その涼しげな輝きは、心を穏やかにしてくれるようで。

 あの人がそばにいてくれたら……などと夢想しつつ一人月を眺める、はずでしたが、いつの間にか隣にうさぎさんが。

 ほのかに光る月色の毛並みは、月うさぎであることを物語っていますが、体は全体的に張りがなく、お年を召していることがうかがえます。

 うさぎさんは独り言のように問うてきました。

「一日の終わり眠る前に想い、一日の始まり目覚めた時に想う、そんなお方は一緒じゃないのかね。わしは常に妻とおるが」

 長く片想いをしているなどと初対面で話すことでもないでしょう。もう遅いから、と分かるような分からないような変事をしました。

 それでもうさぎさんは気にする風でもなく、それ以上話すこともなく、月を見上げていました。

 今度はわたしから、なぜここにいるのかと尋ねました。

「今夜は人目が多くてな。あんまり見られると照れくさくて時々逃げ出すんじゃよ。今夜の月はそんなに魅力的なのかね」

 月と木星が近くに見えるのだと指差して教えましたが、うさぎさんはほぉーと生返事をしたきりまた静かになりましたので、わたしもまた月を目に映し、心にあの人を想いました。

 月はいつまでも見ていられそうですが、明日も仕事があるしそろそろ、と思いましたら見計らったかのように。

「わしに気をつかわず休んでくだされ。月が沈む前に勝手に帰るからの」

「どうやってお帰りになるんですか?」

「月の引力で帰れるじゃろう。いや、妻の引力かの。ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ」

 しばし一人でも寂しくなさそうなうさぎさんをベランダに残して、わたしは部屋に入りました。

 いつかわたしもあんな風に言いたいものです。







月うさぎが月とはぐれた夜


 その夜の空は、アメジストを何重にも敷き詰めて、ダイヤをちりばめたようでした。

 目の前を旅の途中のキンと冷たい風が横切りました。

 風を見送ると、ほのかな光をまとった純白の月うさぎがいました。

「お月さまと隠れん坊をしていたの。お月さまに見つからないように隠れるのよ。そしたらわたし眠ってしまって、目が覚めたらお月さまが空にいなかったの」

 大丈夫ですよ。西の地平線に沈んだお月さままで一緒に歩きましょう。きっとあなたを待っていますよ。

 辺りは見渡す限り草原です。こんな何もない所でどこに隠れたんですか。

「草をいーっぱい千切って自分にかけるんです。そしてじーっと動かないの」

 そして眠っちゃったんですね。背中に緑の草がついているのは、そのせいでしたか。

 二人で西へ西へ、ずんずんずんずん歩いて歩いて。
 朝が来る前に、月うさぎはお月さまに飛び付くことができました。







月が消える夜の小さな小さな話


 三日月から二夜分太くなった月が、太陽が沈んで数時間後の西の夜空にいる。

 もうすぐビルの陰に隠れてしまう。

 無数の星たちも昨夜と同じようにいるけれど、星はなにぶん遠いので、地上では街灯が灯されている。

 くすんだ硝子を通したオレンジ色の光。

 幾何学模様にタイルを敷き詰めた歩道。

 君はそこにいた。


 君がおなかが空いていると言ったから、ぼくは月を取りに行った。

 ビルの外階段を軽快な足取りで上がり、屋上で目一杯手を伸ばすと月に届いた。

 月はいとも簡単に夜空から消えた。

 黄金色に輝く月はぱきっぱきっと割れて、口に入れるとひんやりした。

 月は大きくておなかがいっぱいになった。

 ぼくたちは満ち足りていた。でも何か足りなかった。

 
 君は硝子のハートの話をしてくれた。

 薄い、とても薄い硝子でできたハートが、玉虫色に光る糸でつり下げられている。風鈴屋さんのように。

 星の数ほどあるけれど、一つも同じ色がない。全部色が違うんだよ。

 そして常に揺れている。

 でもどんなに揺れても隣のハートには当たらない。当たったら割れてしまうから。とても薄い硝子だからね。

 上手に避けながら揺れている。

 でもたまに避けきれなくて、割れてしまう。

 浜辺の砂のように砕け散って、落ちてゆく。


 ぼくは青紫色の蝶の話をした。

 蜘蛛の糸に捕まった青紫色の蝶がいた。

 彼女が泣きながら「助けて」と言うので、蜘蛛には悪かったけれど糸から外してやった。

 でも彼女はもう飛べなかった。

 土の上に置いてやると花になった。

 青紫色の小さな花を見ると彼女を思い出すんだよ。


 新しい一日の最初の光が東の稜線に顔を出す直前まで話したけど、何を話したかは重要じゃない。

 大事なのは、ぼくたちが友達になったってことだよ。







月と海賊船


 月は夜空から海を見ている。

 遠い昔沈められた海賊船が、朽ちた姿で海の一部となっている。

 月はふと思い出した。

 最後の骸骨が海にさらわれた夜は、孤独になった船を慰めたっけ。

 今宵、小さな赤い宝石が船を去った。

「まだあったのか」

 月は驚いた。

「まだお宝を隠しているのかい?」







竪琴を奏でる月姫とラケル


 満月が照らす広大な庭園は、昼間の豪奢なドレスの衣擦れの音、内緒の話色恋の話、すべてに幕を引いて眠りについている。

 簡素に見えるように贅を凝らしたあずまやがある。

 薔薇色のマントに長い黒髪を垂らしているのはラケルだ。マントの下は地味な藍色のドレス。

 薔薇色のマントはエヴァ王女のものだ。黒髪に藍色のドレスでは、夜の闇にとけて姿を消してしまいそうだからと。

 月明かりの中、ラケルと向かい合って腰掛けているのがエヴァ王女である。豊かな金髪は海にたゆたうように波打っている。肌は真綿を思わせる。王女らしい豪華なドレスに隠れた体は驚くほど軽い。

 王女こそ月光にとけてしまいそうですよ。

 月が美しかったある夜、ラケルは王女を月姫と呼んだ。ふと思いついただけだったが、王女は気に入った。

 今宵も月姫と呼んであげよう。

 雨の降らない夜に、月姫はあずまやで竪琴を奏でる。

 その音色は一面の花畑を思わせる。
 穏やかな陽射しが降り注ぐ中、そよ吹く風は色とりどりの花を揺らし、乙女はスカートを揺らしてふわりと風に乗るように舞う。

 籠の鳥でいる月姫の願いだろうか。

 ラケルはそんな風に感じていた。

 月姫は無二の友に微笑んで、今宵も弦を弾く。







月見草が咲く夜にピアノをひいて


 もう、残っているのはこのピアノだけになりました。

 貴方が弾く姿をここでこうして眺めて、幾夜を過ごしたことでしょう。

 貴方は月がきれいな夜に弾きたくなるの。

 サンルームのはずのこの部屋、ムーンルームだね、って何度も言いましたね。

 今夜も貴方はそこに座っているのかしら。


 貴方が大事にしていたもの、わたしの宝物をひとつひとつ手放しました。

 だって、持って行けませんもの。

 貴方と旅したイギリスで買った、繊細なカップとお皿。

 欠けないか割れないかと心配で、カチャンという音にいちいちどきっとしていました。しまいには飾っておけと言われてしまいましたね。

 カップたちがこの家からいなくなるのは寂しかったけれど、思い出は変わらずいつもの場所にいて、わたしの心をあたためてくれました。


 貴方が愛用したカメラももうありません。大量の写真も。

 ほこりを被ったアルバムをめくりました。

 一枚一枚回想していたら、とても時間がかかって。
 お昼御飯を忘れて、暗くなって電気をつけて。

 いつも一緒にいたんですね、わたし。


 庭に月見草が咲いています。

 冴え冴えした月と白い可憐なお花。

 妖精が白いお花を踏まないように軽やかに、ステップを踏んでも不思議じゃない夜。

 ピアノを弾く貴方の姿が足りない。

 夜に遠慮してフォルテがない演奏。

 夢うつつでもいいからもう一度、聞きたい。

 わたしに微笑んで、もう一度、弾いてほしい。







あとがき


お読みいただきありがとうございました。

わたしは2016年にnoteさんで投稿を始めて以来、あちこちの投稿サイトやブログでアカウントを作り、削除してきました。

ここに掲載している作品たちはその中で書いてきたものです。現在noteさんに掲載しているものもありますが、いずれも書き直してあります。


ある作品の冒頭で、『月がきれいな夜です。/え、またですか。/まったく、この作者、陽の光より月明かり、昼の喧騒より夜の静けさが好みなんだから』という文を書いたのですが、これは本当にわたしのことで、夜が好きです。

魔法使いや妖精は夜が似合いそうですし、吸血鬼は絶対夜ですから。


ペンネーム「水葵えば」の由来


「水」は一つに形を留めないところが好きで使おうと思いました。

「水葵」は紫色の花ですが、わたしの誕生石がアメジストなので、紫つながりでいいかなと思いました。

「えば」はヘブライ語由来のEva(エヴァ)という女性名からです。Evaは生命という意味があるそうで、アダムとイブのイブも、映画で聞いたゾーイという名前も同じ意味だそうです。

どうぞ 水葵えば をよろしくお願い致します。


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ツイッターは細川環という名前です。三つめのペンネームです。(水葵えば は五つめ)

ぼちぼちやってる感じですが、のぞいてみてください。
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